第7章 出立、記憶の片鱗
「影を継ぐ子…か」
影の呼吸の使い手闇裂宇練が見込んだ少女。何故こんなド素人の餓鬼をあの人が見込んだのかずっと解せなかった。
しかし、先程の変化した顔付き。柱である自分ですら背筋がヒヤリとする一撃を繰り出した腕。
影を継ぐ素質を見出された訳を、なんとなく理解しかけてきた気がした。
「…たく、仕方ねぇなぁ」
気を失って地面に横たわる神影を見下ろしてため息をひとつ。彼女の表情は苦痛に歪められていた。
(少しやりすぎたか…)
ほんの少しの罪悪感を抱き、不死川は神影を横抱きにして屋内へと移動した。
――…ここはどこだろう。
わからない、周りは真っ暗だ。身体が鉛のように重くてピクリとも動かせない。でも、何故だか心地よさを感じる。
ふわふわ、ふわふわ。ずっと身を委ねていたくなるようなあたたかな温もり。
《ねぇ、宇練》
ふと、女性の綺麗な声が聞こえた。
《貴方、もしかして影柱を継いでくれるの?》
聞き覚えのある名前に目を開けると、そこには漆黒の長い髪に見覚えのある上半分だけの般若の面を付けた美しい女性と凛々しい面持ちの青年が向き合っていた。
《はい!千夜さんの意志は俺が継ぎます!》
《そっか、ありがとう宇練》
これは記憶?でもこんなやり取り知らない。私自身の記憶じゃない…?
そして場面が切り替わり、先程の2人が鬼と対峙している場面になった。
《逃げなさい宇練!貴方を失う訳にはいかないの!》
《で、でも千夜さんだけじゃ…!》
《いいから引きなさい!どちらにしろ足でまといよ!!》
そして鬼が動き、青年へ襲いかかる瞬間――
《ぁ…ち、や…さ…》
《ガハッ…ばか、ね…。さっさと引けって…いった、のに…》
鬼の腕は胸を貫通し、口元からはこぷりと血が滴り落ちる。
鬼は即座に腕を抜き、距離を取った。