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月下に閃く漆黒の刃

第7章 出立、記憶の片鱗


「この程度でへばってんじゃねぇ!送り返されてぇのかぁ!?」
「うぐ…それは勘弁です…」
御館様に掛け合ってまで師匠が作ってくれた学びの場を無駄にする訳には行かない。
痛みに悲鳴をあげる足に力を入れ、ふらふらと立ち上がる。あと何回、何十回、何百回打ち込めば一太刀入れられる?果てが見えない。
(でもこれを突破しなきゃこの人はきっと呼吸法の指南はしてくれない。そんな気がする)
随分と手荒な気がしなくはないが、多忙な身としてはこの方が手っ取り早いのだろう。
呼吸法の技を使う必要は無い。ただ、あの呼吸法に近い体の動きが出来ればもしかしたら…。
身体中が痛い。ずっと悲鳴をあげているのはわかってる。できるなら今すぐにでも逃げ出したい。でも私はこの人から風の呼吸を学ばなくてはならないんだ。
(全集中…、そうだ、集中しろ…。相手は柱といえど人間。必ず隙は出来る。どんなに小さな隙も見逃すな…)
スゥ…と軽く息を整え、木刀を構え直した。
「ほぉ?幾分マシな顔付きになったじゃねぇか」
「風の呼吸、習得しないと次に進めないので」
それから何十回、何百回と打ち込み、ほんの刹那――隙が、見えた。
「はぁ!!」
「!」
――ガッ!
「っ、つぅ…ゲホッ!」
隙を突いたと思ったが、寸での所で竹の塀へと蹴り飛ばされた。背中に衝撃が走り、私は咳き込みながらそのままゆっくりと意識を手放した。
「…コイツ」
一太刀入れられそうになった。しかし、それは単なる一太刀ではなく背筋がヒヤリとするものだった。
ただの素人だとどこかで油断していたのかもしれない。しかし、あのヒヤリとした感覚。あれはこれまでの死線の中で何度か経験したことのある類の感覚だった。
そう、"命に関わる一撃"。まさにそれとよく似た感覚だったのだ。

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