第1章 駐屯兵団にて
石畳はひんやりと冷たく、見上げた空は青い。
エリナは平の兵士にしては生意気だった態度を少し悔いていたが、半分してやったと思っていた。
最上階の中庭とは名ばかりの緑がない広場はエリナのお気に入りの場所。人通りも少なく寝転がって物思いに耽るには丁度いい。
「ふへへへ、キッツのバーカ」
一体私の何がそんなに気に食わないのだろうか。辛く当たられれば当たられるほど考えて悩んだものだが、キッツは誰にでもそういう男だった。ただ、エリナが真面目で適当に流すことができない事から八つ当たりのターゲットとして、より厳しく当たるようになったのだろう。普通なんでも素直に受け止めてしまう純粋な部下ならば、大切にしようと思わないのか?仕事は真面目にやっているではないか。まったく報われない。
手元に置いてある、誰かが忘れたであろう雑誌を手にとった。
『月刊 壁男』
娯楽が少ないこの世界において数少ない、娯楽誌とは名ばかりの少々いかがわしさも含む雑誌だ。
“女子300人が選ぶ、抱かれたい男、抱かれたくない男決定戦”
この企画にキッツは上位にランクインだ。もちろん“抱かれたくない”ほうの。これを見るだけでも、笑いがこみあげてきた。
「フフフ・・。私が夜なべをして投票した甲斐があったってもんよ・・ヒヒヒヒヒ」
29歳のいい大人がすることじゃないのは重々承知だが、兵団という閉鎖された空間での毎日の叱責は耐えられないものもあった。
キッツの配下につき1年が経過、よく耐えた。アンカと共にピクシス司令の副官を務めていたのに、
「んー、そろそろお前も副官として一人前じゃ。キッツを支えてやってくれ。あいつは少々肝が小さいからの。お前がいれば心強い」
そういって司令から急に異動を言い渡されたときは、目の前が真っ暗になったものだ。えー、なんでよりによってあの男ですか司令!?そんな事は言えず、敬礼をし
「謹んでお受けします」
と答えるのが精一杯だった。そろそろ本気で異動願いをだすか・・。そう考えていたら知っている顔が空を隠した。