第1章 駐屯兵団にて
「で、うちの大砲はいかがだったかな?」
キッツが不機嫌そうに聞く。どうやら先ほどのエリナの態度が尾を引いているらしい。
「それについては、カルロ」
「はい、ぶどう弾ですがやはり巨人の動きを止めるのは1分が限度かと。もう少し長く巨人の動きを制御することができれば助かるのですが・・」
調査兵団が出発前に、ぶどう弾や榴弾を使ってあらかた巨人を一掃する。しかし、榴弾は殺傷能力はあれど射的精度は低く、ぶどう弾は足止め効果はあれど、殺傷能力はない。この精度が上がれば援護班も最小限の戦闘でスムーズに隊列に戻れるものだ。
「そんな事はわかっておる!今の技巧兵の技術ではこれが精一杯だ!」
毎回変わらない議論に苛立ったのか、キッツは投げやりに言葉を発した。
「どれどれ、技巧兵からの資料を見てみるかの」
ピクシスは受け取った資料の複写をエルヴィンに渡しページを捲るも、今回も前回と同じ内容が書いているのを確認すると早々に閉じた。
「技術は進歩せんのぅ。ワシが死ぬまでに一撃必殺の武器でもできればいいんじゃが」
「それなら壁外調査も楽になります」
愛想程度に笑いページを捲るエルヴィンの指を、資料から飛び出たピンク色の紙がかする。何かのメモが紛れ込んだのかと見れば小さな字でおよその巨人のサイズ、砲弾が当たった個所と動きだすまでにかかった大体の時間が記載されていた。
「これは?」
見せるとピクシスが再び手元の資料を捲った。ページの最後にピクシスの資料にも同じものが挟み込まれていた。
「この癖のある字はエリナの字ですね・・。恐らく彼女が独自に調べたものかと」
付く人物は違えど側近同士、関わりがあるのだろう、アンカの口調は確かだった。
「この汚い字はエリナだな。あいつは余計なことばかり!!大方、暇だったんだろ」
自らに尽くす側近を悪く言うキッツの態度にカルロは僅かだが、冷たい目を向ける。
「なるほど・・」
忙しい中一生懸命書いたのだろう、乱れた文字を見てエルヴィンは言った。
「キッツ殿は優秀な部下をお持ちですな」