第6章 845の化け物
「変人たちとつるむのは控えたまえ。君は駐屯兵団だろ?」
「その駐屯兵団の砲台改良のためですけれど?」
自身の行動を咎めるような物言いに、久々にキッツ以外の人間に苛立ちを覚えた。本来ならば
—ハンジさんの力を借りずとも兵器開発が上手くいくならその必要はなくなるけれど?―
と嫌味の一つも追加で言いたいところだが、暗にマスロヴァをも責める事になるので飲み込むしかない。
「変な噂も立っている。駐屯兵団の売れ残りが、調査兵団で婿探しってね」
口角が僅かに上がったサギドを睨みつけていった。
「誰がそんなバカみたいな噂を?」
エリナの元々高くない声が、威圧感を増している。
相当怒っている証拠だと、リコやアイがいたら仲裁に入るところだろうが生憎誰もいない。
「女兵士たちさ。わかるだろう?」
「そうでしょうね。とにかく、仕事だから」
エリナの頭痛の種は大方キッツだが、実は同じ駐屯兵団の女どもも厄介ではあった。元々噂好きの子達ではあるが、エリナがエルヴィンと食事に行き、調査兵団を行き来していると知られてから彼女たちの好奇の目はエリナに注がれていた。勿論彼女達に知れ渡るくらいだからキッツの耳にも入っている。しかし、そこは団長のキースなりエルヴィンが上手く言ってくれているのだろう、エリナの活動は通常業務に支障を出さない範囲で黙認されていた。
黙認しているだけで、キッツは快く思っていないというのは難点だが。
「調査兵団といえば・・」
集中していたはずのマスロヴァが口を挟んだ。
これは実はとても珍しい事だが、険悪な雰囲気に耐えかねたのかもしれない。
「今日は壁画調査じゃないか。エリナ、行かなくていいのかい?」
「今回は門番ではなく、事務仕事担当です。それにキッツ隊長から呼び出されていますから」
通常なら門に立ち固定砲のところでデータを取り砲弾の装填をするのだが、今回は裏方業務を担当する。これはキッツなり調査兵団と関わっているエリナの存在が面白くない兵士の嫌がらせである気もする。前線で援護班とともに戦うリコやアイが気がかりではあるが命令とあらば致し方ない。