第5章 月刊『壁男』と夜会
室内の明りがバルコニーを照らしているため、外に出ても足元は明るかった。エリナの沈んだ気持ちとは反対に夜空の星は輝いている。あと10分もすれば新年だろう、エリナとてこんな気持ちで新年を迎えたくはないが心を軽くする物に出会えそうにはない。せめて一人で静かに新年を迎えたいと手すりに手をかけた。
「玄関は反対側だぞ」
纏わりつく令嬢たちをどのように振り払ったのか、背後にエルヴィンの声がした。
「分隊長!」
敬礼をしエルヴィンの言葉を待つが、エリナと同様に手すりに手をかけて黙って空を見上げている。
「玄関は反対側とは?」
仕方なく先ほどの言葉を反芻する。
「帰りたいんじゃないのか?」
図星だ。今すぐ帰りたい、帰ってアイやリコとの年越しパーティに参加したい。
「まぁ・・」
「同じだな。私も早く本部に帰って ――」
続く言葉に身体を強張らせる。
「仕事を片付けたい」
身体の緊張が解けた。
「分隊長はご友人とかとパーティはされないのですか?」
「どうだろうな、たまにハンジ達と飲んだりはするが・・ここ数年は仕事をしながらの年越しだ」
強張っていた表情が緩むのが分かる。力が抜けると途端に寒さを感じだした。
――くしゅん!――
飛沫がエルヴィンに飛ばぬよう抑えるが、結構な水量が手からはみ出した気もする。