第1章 駐屯兵団にて
苦々しい気持ちを噛みしめ、重厚な扉をノックすると、
「入れ」
としゃがれた声が聞こえた。
言われるがまま入ると、資料が並べられた長机の上座にピクシス司令が腰をかけている。
「技巧兵からの資料をお持ちしました」
「ご苦労、下がってよい」
昨晩も酒を飲んだのだろう、ピクシスの声は掠れていた。
それを気にしてか側近のアンカは温かい紅茶をピクシスの元へ運んでいた。
「さすが、気が利くのぅ」
化粧などしなくても整った目鼻立ちのアンカが冷たく
「飲みすぎですよ。調査兵団の方々もいらっしゃるのですから、駐屯兵団のメンツも気にしてください」
と言い放った。
「ピクシス司令は優秀な側近がいて羨ましい限りですな!」
ワザとか何も考えていないのか、キッツ隊長の大きな声が聞こえる。
「それでは、失礼します。資料はちゃんと確認していますので」
語気を強くしてしまったことに気づきマズイ・・と冷や汗をかくも、
「ありがとう、エリナ」
温かい声が聞こえた方を見ればエルヴィン分隊長が微笑んでいる。苦笑いのピクシス司令に気づかぬふりをしてエリナは退室した。