第1章 駐屯兵団にて
「今日も化粧はしないんだな」
再会を喜んですぐ、同じ方向に足を進めるとカルロが言った。
「あんたの金髪の上官のため?くだらない」
鼻で笑うしかない。兵士にはそぐわない化粧をするのは駐屯兵団の女兵士くらいだ。
後は、王族貴族に取り入りたい一部の憲兵団の女兵士もだろうか。カルロの姿を見つけた時点で女達はわかったのだろう、今日は調査兵団のエルヴィン分隊長と、ミケ班長が来ていると。紅の色がいつもより少し濃い。そんな同僚達の姿を、女の子らしいと少し羨ましく思いつつもエリナにはできない事だった。自分は兵士だ、オシャレは不要・・が、エリナの口癖だ。
そんな幼馴染の姿を尊敬すると同時に、29歳にもなって浮いた話の一つもないところは心配でもあった。
「キッツ隊長とは上手くいっているのか」
触れられたくない質問に無言の抗議をした所で、カルロの足が止まった。
「エルヴィン分隊長、ミケ班長!」
敬礼するカルロにエリナも続く。
「ご無事のご帰還、何よりです」
形式的に言葉を発し敬礼をすると、エルヴィンは軽く手を挙げなおるように合図した。
「今から資料を届けるところか?」
いつもの落ち着いた声で聞くエルヴィンに
「今回はちゃんと確認しておりますので!」
思わず声を大きくして答える。
「そうか」
と唇の端を上げるエルヴィンと、「フンッ」と鼻で笑うミケを前にこの前のことを思い出す。
ああ、そうだった。ピクシス司令だけでなく、キース団長、エルヴィン分隊長、ミケ班長もいたんだった・・。