第4章 地下のゴロツキ
先ほどはボールで遊んでいた子供は、今度は鬼ごっこを始めたようだ。
―――俺が1番速い!!―――
こちらへ向かって猛ダッシュする少年を手招きし、人差し指を当てる。
「今、こちらの兵士さんは疲れて眠っているの。起こさないようにあっちの方で遊べるかな?」
小声でお願いすると笑顔で少年は頷き、他の子を引き連れて移動していった。その光景に幼少期のカルロと自分、孤児院の仲間たちを思い出す。
強い風が吹き、飛ばされはしないかと慌ててエルヴィンの書類を手に取る。分厚いその書類を覗いてみたい衝動に駆られると同時に、手はページを捲っていた。
“被害を最小限” “巨人となるべく交戦せず”
エルヴィンの部隊がなぜ死者ゼロなのか納得がいった。
きっと彼はこうやって、部下の命を守る事を最優先としていたのだろう。
「兵士を大切にされているんですね・・」
横を見ると、顔を覆っていた右手は地面につきエルヴィンの端正な顔が露わになっている。
間近でマジマジと無防備な姿を見られるのは、彼の愛する人か心を許した仲間くらいだろうか。
心を許せる仲間のカテゴリーに自分は入ったのかもしれない。そう考えるとエリナの自尊心は満たされた気がした。
長いまつ毛に整った目鼻立ち、輝くばかりの金髪・・もう少し近くで見たいと欲望の赴くままに顔を近づけているのをエリナは気付いていなかった。
「おーーーーい!!エリナじゃないか!!何してるんだ!?」