第4章 地下のゴロツキ
「そういえば、なぜ分隊長はこちらに?」
先ほどの質問の答えを貰っていないことに気が付き聞いてみた。
「いや、移動中に寝転がる君の姿が見えたんだ。気を付けなさい。昼間とはいえ女性がこんなところで寝て、何か起こらないとも限らない」
作戦書だろうか、見たことがない陣形が描かれている紙を捲って答える。
そうか、この人は自分の為に見張りをしてくれていたのか。整った容姿に分隊長となる実力、それに加えてこの優しさ・・。
人気がでないわけがない。何をしても人並み以上という人種はいるのだ。男女の垣根を越えて人間として完敗だ。
「分隊長・・刺されないようにお気をつけください」
こんなにも完璧な人間は同性から恨みを買っているに違いない。エリナなりの思いやりとしての警告だった。
物騒な発言に一笑し、エルヴィンは自嘲気味に言った。
「そうだな・・私を恨む人間は沢山いる」
そういうつもりではなかったのだが・・。違うと否定する前にエルヴィンが口を開いた。
「私も寝るとするよ。団長に、次回の壁外調査での新しい陣形を提案したんだがね・・。自分が団長になってからやれって言われてしまったよ」
右手で降り注ぐ日差しをよけつつ目を閉じた。胸に無造作に置かれた資料には“長距離索敵陣形”と書かれた文字。
紙のくたびれ具合から肌身離さず、持ち歩いては考えてたであろうエルヴィンの努力が見て取れた。
―――烏滸がましいよねーーー
そう思いつつもエリナは自分とエルヴィンを重ねていた。
「おやすみなさい、分隊長。私は刺しませんから」
僅かに口元に笑みを浮かべてエルヴィンは眠りへとついた。