第3章 特訓とハンジ
「やぁエリナ今日はどうしたんだ?」
目の保護ゴーグルを付けた小太りな40代の男はイサーク・マスロヴァ。気の弱そうな風貌の彼が技巧部隊のトップだ。
弛んだ身体は立体起動を使うことができず、兵士というよりは完璧な研究者の風体。
のんびりとした声音とは裏腹に、無精ひげを蓄え乱れた白髪交じりの髪の毛、机に散らばる非常食の乾パンが最近の彼の大変さを物語っていた。
「マスロヴァ技巧長もキッツ隊長から何か言われました?」
「ご名答。貴様らはどうなっとるんだーーとか何とか言ってたよ。後半は聞いてなかったから何話してたかわからないけど」
鉄を切断する音、作業工程で飛び散る粉塵は決して健康的には良くないのだろうけれど、マスロヴァと話すとエリナは落ち着くのだ。暇を見つけては仕事と言い訳をして技巧室に入り浸ることもあった。
「調査兵団にハンジ班長という方がいらっしゃって・・」
事情を話すとマスロヴァは黙って頷いた。
「僕も調査兵団と協力して開発するのもいいと思っていたんだ。ただ、技術に関して詳しい人物がいなかったからそんな機会がなかっただけでさ。僕たちとしては大歓迎なんだけどな」
壁外調査にでかける調査兵団、その命を守る兵器を開発する技巧部隊・・現場の人間がやりたいという事も上官の変なプライドの為に却下されてしまう・・理不尽だなとエリナは思う。手にはハンジの意見を纏めた兵器改善案の資料。迸るハンジの情熱を書き留めたものはとても読める代物ではなかったので、字が汚いのは承知だが読みやすいようにと清書した。ミミズのような字を見ているとだんだんと視界がぼやけ文字も歪んできた。