第3章 特訓とハンジ
扉を開けるとそこは魔界。
床に散らばった本に実験器具、食べ物の臭いと怪しげな薬の臭いが混ざり合った空間に眩暈がする。
一瞬、黒い物体が床を高速移動した気がするが気のせいに違いない。“チュー”という鳴き声がした気もするが気のせいに違いない。
「座って!いま紅茶入れるから」
―――そう言われてもどこに座れば?紅茶を入れるといってビーカーでお湯を沸かしているけれど、そのビーカーってさっきまで床に転がっていませんでしたっけ?―――
色々とツッコミたいことは満載だったが、エリナはソファーの隅にスペースを見つけ腰をかけた。エリナの体重でソファーが沈むと重なり合っていた本がバサバサと音を立てて床に落ちる。形だけでも拾おうとすると、
「エリナ、気にしなくていいからそのままで」
と、入室してきたモブリットが声をかけた。
「ハンジさん、来客の事も考えて綺麗にしてくれってあれほど・・。しかも先週掃除したばかりじゃないですか!どうして1週間でこんなにも・・」
「でねエリナ、壁外調査行くときに固定砲を見ていて思ったんだけどさ!発射してからの飛距離が大砲によって違うって思ったんだよね・・・きっと中のガス圧が変わるからだと思うんだ。そのガス圧が何で変わるかていうと、閉鎖機の微妙な開閉弁が・・」
文句を言うモブリットの存在は無視されていた。
一通りハンジの意見を聞き、技巧部とミーティングの場を設けようという話で合意した時には景色は暗闇に包まれていた。
「すみません、そろそろ帰らないと夕食の約束が・・」
きっと朝まで話し続けるであろうハンジを遮り、エリナは腰を上げた。