第3章 特訓とハンジ
「そんな事だろうと思ったから大丈夫」
疲れをとろうと肩を回しながらそう笑って話すエリナの背を優しく叩く人物がいた。
精鋭部隊の班長、リコ・ブレツェンスカだ。
キッツの側近である点はエリナと同じだが、彼女は実戦を担当しエリナは主に事務方を担当している。
精鋭部隊は文字通り選ばれた駐屯兵団のトップ集団であり、調査兵団が壁外調査へ出かける際の援護なども担当する。
本来ならばエリナが精鋭部隊のキッツの副官をすること自体がおかしい気もするのだが・・ピクシスの一存だからそこは仕方がない。
「大変だったな」
眼鏡の奥に優しい瞳をのぞかせてリコは笑う。
「本当に・・。その情報収集能力は仕事で役立ててほしいものだけどね」
駐屯兵団で働き者といえば、幹部組と精鋭部隊、そして一部の兵士だけという噂はあながち嘘ではない。残念ながら有難いはずの平和は駐屯兵団を腐らせるのに十分だった。立体起動を身に着けた状態のリコは恐らく訓練をしていたのだろう、ジャケットの中の白シャツが汗で身体に張り付いている。
「リコは訓練帰り?」
「うん。この前の壁外調査での私たちのフォーメーションとか確認しておきたくてね」
「さすが精鋭部隊!」
援護部隊として調査兵団の出発を支える精鋭部隊を純粋に尊敬し、“精鋭”と名がつく部隊にいることが羨ましくもある。
仲のいいリコだけでなくアイも実はミタビ班の精鋭部隊だ。班長と役職がつくリコは上官にあたるが、年齢が似ている3人は仲が良く敬語を使わない。
「エリナはこれから訓練に行くんだろ?」
「まぁね。訓練の意味があるかは不明だけど日課だし」
エリナのメインの仕事は事務関係であり、特に立体起動の必要性はない。しかし、平和な世界が続こうともエリナが兵士であることを考えれば、非常時の時のために訓練をしないという選択は、真面目なエリナにとってはあり得なかった。
そんなエリナをリコもアイも慕っているし、尊敬もしている。