第3章 特訓とハンジ
―――人類のためだよ。
一晩経ってもエリナの頭には、エルヴィンのあの言葉を発した時の目が焼き付いていた。
何気ないやりとり、特に気にするべきことではないはずだが、どこかエリナの心を引っ張るのだ。
スッキリしない朝を迎えたが、その不安定な心は同僚からの質問攻めがかき消した。
「エリナねぇ!どういうこと!?何でアンタがエルヴィン分隊長たちとご飯行ったの?」
「ずるくない!?ずるくない!?どうやって誘ってもらったの!!??」
「いつの間に仲良くなったの?どうやって?」
矢継ぎ早に質問され、目線を動かすとアイが両手を合わせて“ゴメン”と謝るポーズをしている。そうか、アイがバラシたのか・・。
彼女のことだ、言いふらしたというより質問されて答えたところ噂が広まったというところだろうか。
「なーんも皆さんが心配することはありません!ただ、いつもの資料のお礼に・・と誘って頂いただけです!」
全員を黙らすよう大きな声で無実を証明するが、質問の種類が変わるだけだった。
「で、何話したの?何話した!?教えてよ!」
「分隊長の好みの女性のタイプとか?プライベートの事とか聞いた?」
「ミケ班長は?普段は何をされているのかしら!?」
あの2人の人気は相当なものらしい。聞いてくる女兵士の目が獲物を前に狩りをせんばかりの勢いだ。
「ゴメン、本当にみんなが期待する事を聞いていないの!駐屯兵団の仕事の話とか、兵器の改善案だよ!仕事の話!」
本当はエリナ自身のことを聞いて知ろうとしてくれた。沢山労ってくれた。それを話すと“羨ましすぎる!”と大合唱が始まるに決まっているのをエリナは知っていた。
「そっかぁ・・。つまんない。あのお2人と食事ができるならキッツ隊長の下で働いてもいいかもって思ったのに」
口を尖らせる同僚を前にエリナは詰め寄った。
「本当だね?本当だね?代わってくれるの?」
普段からエリナがいかに苦労しているか知っている同僚たちは、逃げるようにエリナから離れていった。
殺虫剤のように効く上官の名前を有難いとエリナは初めて感謝する。
「ゴメン・・。私も彼女たちに囲まれてさ・・。エリナが王子2人と歩いていたけれど何でだ、って」
形のいい眉を下げてアイが謝罪の言葉を口にする。