第2章 レストランにて
数秒の沈黙の間、エルヴィンのカトラリーが動く音を聞いていた。正直すぎただろうか。相手は文字通り“人類に心臓を捧げた“調査兵団の分隊長だ。軽蔑されたに違いない。
「すみません、本心をと言われても嘘をつくべきだったかもしれません」
耐えきれずに謝罪の言葉を口にするが
「いや、それを私は聞きたかった」
察するにエルヴィンは満足したようだった。
誘われた時は他兵団の上官との食事は堅苦しいものだと思っていたが、エルヴィンとミケとの場合は違った。
エリナが気を遣わないように、世間話やエリナ自身の普段の生活など、話しやすい会話をしてくれている。
駐屯兵団としての役割とは・・、心臓を捧げることを選んだ兵士の矜持とは・・などという熱血馬鹿にありがちな会話もなく、どの部隊の誰が可愛いだの、身体つきがイヤらしくて堪らないだの男性兵士にありがちな下品な会話もないのだ。
食事が終わる頃には、エリナは笑顔を見せていた。
「休みだったのに悪かったね。君と話ができてよかったよ」
そう言い全員の会計を当然のように済ませようとするエルヴィンに
「いえ、こちらこそ。お誘い嬉しかったです。あの、凄く楽しかったです」
エリナは心からそう思っていた。自分の分は支払おうとするが、
「甘えなさい」
と言われ結局は出させてくれなかった。お礼を言い微笑まれた瞬間、エリナは思わず聞きたくなってしまったのだ。
「エルヴィン分隊長はなぜ調査兵団に?」
「それは当然―――」
「本心が聞きたいです」
上官の言葉を遮るのは無礼だという事も忘れ、理由もなく聞いてみたくなってしまった。エリナの黒い瞳が好奇心で輝く。
「―――人類のためだよ」
噓偽りなんて微塵もない、自分の心臓を捧げることが人類を救う事になると疑わない、そんな声音で答える目の前の男の瞳をエリナは見つめていた。