第2章 レストランにて
笑顔のウェイトレスに通された窓際の席は、日当たりが良くカジュアルでありつつも、下町のレストランにしてはどこか品位を保っていた。裏路地にあり人目にそんなにつかない所から、隠れた名店といったところだろうか。
「座りなさい」
エルヴィンに促され着席すると、
「さて、私とミケどちらが君の隣がいいかな?」
エルヴィンは少し意地悪な顔をして聞いた。
「どちらでもいいです!」
「そうか?それならミケを隣にしようか。君はミケ派らしいからね」
―うわぁー、この人執念深いよ、根に持つタイプだよ――
先ほどの軽率な会話を後悔するも反論する気も失せていた。
「エルヴィン、その位にしてやれ。彼女も本音じゃないだろ」
すました顔で言うミケの言葉に頷きながらエルヴィンとカルロは席についた。
3人の180㎝越えの男性に囲まれ、いささかエリナは生きた心地がしない。カルロは幼馴染だからよしとするが、後の2人は大して話した事もなければ他兵団の上官だ。リラックスできるわけもなくエリナは元々小柄な身体をさらに小さくして座っていた。
「いつもエリナには資料の手配で世話になっているからね。一度話してみたかったんだ」
エルヴィンの一言で何か悪い事が起こるわけではないという事が分かり、少しは肩の力が抜けた。
「光栄です、こんな末端の兵士である私に対して勿体ないです」
運ばれてきた水を飲もうとしてグラスを置き、しおらしく頭を下げる。
「気楽にしてくれ。いつも君が工夫をして資料を作ってくれているのは知っている。感謝しているよ」
分隊長クラスの上官の口から素直に謝辞が出てくるのを耳にし、再び手にとったグラスを落としそうになる。
「なんてこったい、キッツの野郎ではありえないよ・・」
普段のエリナが見せる礼儀正しさとは真反対の態度に、エルヴィンとミケは一斉に視線をエリナに注ぐ。
彼らの反応が不思議で首をかしげるが、心の中で思った事が素直に口から出ていることにエリナは気づいていない。
カルロだけは冷静にメニューを見ていた。分隊長と班長がいるからきっとここは奢りだろう。