第54章 鳥と花
『俺は地下街の方が性にあってる。ナイフ1本で生きてきた俺が今更地上で普通の仕事なんて想像出来ないからな。地上で俺が出来る仕事なんてねぇ』
『地上での仕事·····』
いつだったか、リサはリヴァイの背中に靡く翼を見たことがある。勿論翼は本物ではないけれど、リヴァイから靡く翼はまさしく英雄の姿に見えた。
『リヴァイさん、兵士とかどうです?』
『あ?寝言は寝てから言え。俺が政治家の犬なんかなるわけねぇだろ。確かに立体機動装置をあいつらは使うかもしれねぇが、オレは人の為に何かするほどの正義感はないな。残念だったな、リサよ』
『うーん。適役な気がするんですけどねぇ』
あくまでも幻。
身内には優しいリヴァイ。
地上への永住権を手に入れることがまず先だなぁとリサは風の向こうへ飛んでいく鳥を見ながらぼんやりとそんな事を考えていた。
『ひゃっ!』
びゅうっと強い風が吹き、背中から風に押される。それと同時に遠くから鐘の音が聞こえた。
『何の音だ?まだ昼飯時でもねぇな』
『そこの壁ら辺から聞こえましたね。お祭りでもしてるのでしょうか?リヴァイさん、行ってみましょう!』
興味のなさそうなリヴァイはリサに手を引かれながら鐘が鳴った場所へと向かうことにした。
─地上へ来てからやたらと鳥を見かけるな。たまたま鳥を見かけるのか、はたまた俺が鳥を見てしまうのか。
細くて温かく包むリサの手。
少しかさついていても、繋がる手から伝わるのはつややかな物。
いつかはこの手から離れる日がくるのかもしれない。
それは互いに望んだものじゃなくても。
代わりの男なんて作らせてやるつもりはない。
『リヴァイさん、ぼーっとしてたら転びますよ』
『はっ!どの口が言ってやがる』
『あははっ!』
冗談ですよ!とからかって笑う程、心を許している。
『まずは永住権だな』
『え?何か言いました?』
『いや、何でもねぇよ。リサこそ、転ぶなよ』
ギュッと強く握るとリサも握り返す。
2人で鐘の鳴る方へ向かう。
その先で待ち受けているモノをリサはこの時はまだ知る由もなかった。