第52章 初めましてと再会
ディックが名残惜しそうに退室して間もなく。
丁寧にゆっくりとアーヴェンは紅茶を用意しているのに、リサには忙しなく早い動きに見える。時間は平等に過ぎていくもので、あっという間に紅茶は蒸され花柄が綺麗な模様のティーカップが目の前に置かれる。屋敷の料理人が焼いたと思われる焼き立ての香ばしい焼き菓子がリサの心情を無視して、リサの胃は欲してしまった。
『僕の分も欲しければ食べるといいよ』
『いえ、結構です』
物欲しそうな顔をしていたのかオレグはリサの方に焼き菓子の乗った皿を寄せるがリサは押し返す。
食べ物に恨みはないがオレグの分の焼き菓子は食べたくない。
『それでは、私はこれにて失礼致します。何かあればその・・・』
『あー、使用人さんはもういいよ。早くリサと2人っきりにしてくれないか?』
『・・・・・・っ』
『・・・かしこまりました。リサ様、大丈夫ですからご安心くださいませ』
きっとリヴァイのことを言っているのだろう。
今も1人でいるリヴァイのことを気にしているリサにアーヴェンは微笑みながらお辞儀をする。
リサは小さく返事を返すと、重そうな扉はバタンと閉じられ2人っきりになった。
『さて、僕専属の娼婦だったリサ。父親と会えて良かったじゃないか』
『父に会えたのは良かったですが、その呼び方は止めてもらえません?その仕事に誇りを持ってやってる人もいるので悪くは言いませんがもう関係ないことです。それに父に平然と適当な事を・・・』
『君だって娼婦だったことをバレるのは嫌だっただろう?そこは感謝してもらいたいね』
鼻で笑いオレグは用意された紅茶を飲む。
美味しいが好みの茶葉ではないと文句を言いながら。リサはとても美味しく感じる紅茶なだけに、味覚も嗜好も違うことにひっそりと安堵した。