第52章 初めましてと再会
コンコン・・・
リサがぐるぐると考えめぐらせていると部屋に乾いた音が鳴る。
父の仕事関係の人だろうかとリサは席を外そうとするも、座っていなさいと手でアクションをされる。
『少し前に貴族の方々の集まりで耳に挟んだことがあってね。噂話などは疎いものだからそれまで知らなかったのだよ』
そう言いながら、ディックは直接ノックの主を出迎えようとする。リサは父の後を追うように体ごと向け、アームレストに手を置く。
久しぶりだね。とディックは親しげに誰かと話している。この応接室に入る時にリサも感じたが、ドアの前では中の様子が見えないのと同時にリサから見た角度も来客の顔が見えない。
『さぁ、どうぞお入りください』
ディックはにこやかに来客を招く。
『オレグ・ロヴォフ……』
『久しぶりだな、リサ。君に会えて嬉しいよ。あの時は散々な目にあったけどね』
オレグは挨拶にリサの手の甲に唇を寄せようとすると、リサは勢いよく手を引く。手の上が空になったままオレグはリサに微笑む。助けを求めるようにアーヴェンを見るが、主であるディックの方が主従関係は強い。今この場で1番にアーヴェンを動かせるのは父であるディックだけ。
アーヴェンはアーヴェンで事を知っているだけにリサの視線に気づくも気づかないふりをする。
リサがオレグの娼館で働いていたというのはアーヴェンといえどディックには知らせていない。
祖母のクララでさえあの様なことになったのに、実の父のディックなら尚ショックは大きいだろう。
『いやぁ、オレグ君がリサと知り合いだなんて知らなかったよ!地下街にも商売の先を向けるなんて流石だ。リサはそこで一緒に働いていたというから驚きだ。そういえば、リサはどのような仕事を?』
────!!!
リサが何とか誤魔化そうと言葉を探す。
『ディックさん、リサさんは接客業です。看板娘でよく働いていました』
貸一つ。そんな風に取れる目線にリサは自分の唇を噛んだ。