第52章 初めましてと再会
小さくいただきます。とリサはカップに口付ける。フレーバーティーのようで芳醇な果実の香りと控えめな甘み。ゆらゆらと揺らめく水色(すいしょく)。ゴールデンリングが美しく、水面に映る自分の顔を眺めていた。
──リヴァイさんもこれを飲んでるのかしら
『リサ、君は誰かとここに来たようだね』
『は、はい!えっと、地下街でお世話になっている方です』
『アーヴェンから男性と聞く。その方はリサの恋人かな?』
チラリとアーヴェンを見やると、何も言ってませんよ?とオーラで伝える。
リサとリヴァイのことを見守ることにしたアーヴェンなのだから、余計なことは言っていないだろう。
『いえ、恋人ではありません』
嘘も方便。だが、リサはこの件については嘘はつかない方がいいと判断。
カチャリとソーサーにカップを戻すと、紅茶が空になったことに気づいたメイドが再度注ごうとするがリサはにっこりと手で遠慮した。
『そうか。リサもいい年頃のレディだ。少し早いかもしれないが身を固める事も考えないといけない。僕の子どもは君だけだ。リリーに出来なかった分、君には惜しみなく掛けてあげたい』
『えっと……身を固めるって……』
『結婚に決まっているだろう。恋人がいないなら尚のこと。いずれはミッシェル家を継いでもらいたいからね』
娘の幸せを願う父の顔をする。
裏のないその気持ちがリサには痛い。恋人という存在がいないのは嘘ではないにしろ、想い人はいる。
こうなる事を予想していなかったわけではない。
リヴァイも口にせずとも感じ取っていたはず。
それでも父親に合わせたがっていたのは何故だろう。
『私がいなくなっても……いいの?』