第52章 初めましてと再会
『ディック様。リサがお見えでございます』
ノックを数回。アーヴィンの低く通る声が廊下に響く。隣にいなくなったリヴァイの手を握ることも出来ず、代わりに自分の手を握る。落ち着く訳では無いが何かを握っていないと心許ない。
『入りなさい』
ディック──リサの父の声。
『し、失礼します!』
リサの為にアーヴィンは開けてやる。
目の前は大きな窓があり、ついさっきまで見上げていた空が映る。
たくさんの書物が最初に目に映る。壁を伝いながら視界を追いかけていくと、書斎に座る男性。
会ったことはないはずなのに、何処か懐かしい気がした。
『……リサ』
『は、はじめまして・・・リサです』
『そんな緊張しなくていい。君はリリー……母親にそっくりだね』
リサの傍によるとディックはリサの肩に手を置く。笑えば眉が下がり愛情深そうな父。聞いていた通りに母、リリーのことをたいそう大事にしていたようだった。
『不甲斐ない私のせいで、リリーとリサには苦労かけたな……すまなかった。地下街は暮らしにくいだろう』
『いえ。裕福ではありませんが、母と私は幸せでした』
正直なところ母との思い出は朧気。
それでも愛されていた記憶は頭の片隅に残る。
立ち話もなんだからとリサはディックに皮張りの質の良さそうなソファに座るよう促される。
座ったことがない質感で身体が沈むよう。
ディックがテーブルの端にあるベルをチリンチリンと鳴らすと、1人のメイドがワゴンでお茶菓子を運んでくる。
リサは何かを言うわけでもなく静かにメイドの動きを見ていた。