第50章 それもまた貴方
『なぜリサが泣く?今の恰好じゃ、お前を抱きしめてやれねぇが?』
『だ、大丈夫です』
両目を両手先で押さえ涙を引っ込ます。
『・・・そろそろ、シャワー浴びてきてもいいか?』
『あっ・・・ごめんなさい。私、1度イザベルのところに戻ります』
『・・・俺が出るまで待ってろ』
リヴァイは振り返ることなくしシャワー室へ向かう。
すぐに扉の向こうから水が流れる音がして、本当にリヴァイはシャワーを浴びに行ったようだ。
『私・・・は、リヴァイさんを・・・愛しているの』
───殺しをするリヴァイさんを?
───どんな事をしてもリヴァイさんはリヴァイさん
───優しいだけのリヴァイさんじゃないことは知っている
───ほんとに?
仲間思い、優しい・・・その奥は窃盗団で殺しだってする。
リサがいることで、それはしなくなった。
リサは何処かで安心していた。
その安心が・・・崩れた。
『お前は甘い』
そんな言葉が聞こえてきそうだった。
リサが知らないリヴァイの眼。
シャワールームからはまだ水の音が静かな部屋まで聞こえる。
置物のように突っ立っているリサは何を思うのか。
理想、現実。
仲間への愛。
複雑すぎて解釈できず頭を抱える。
『リサ、待たせたな。・・・・・・リサ?』
リサの姿はアジトにはなかった。
*****
『帰って・・・きちゃった、どうしよう・・・。・・・・・・イザベル大丈夫かな』
逃げるように帰ってきてしまったリサは、顔を顰めて髪を触る。どこかの喧騒や物音はいつも聞いているはずなのに、耳に入る音は無音で自分の声だけが聞こえた。
イザベルを起こさぬように家に入る。
薄暗い部屋に蝋の灯りがぼんやりとベッドを照らしている。
『・・・薬飲んだのね。イザベル・・・頑張ったね』
チェストの上には開かれた薬包紙と水の入ったコップ。
睡眠作用もあるようでイザベルはぐっすりと眠っている。
ファーランもそのまま寝てしまったようで足を組んだまま椅子にもたれていた。