第5章 近付く距離(●)
『お待たせしました!…リヴァイさん、やっぱり私の掃除全然出来てませんでした?』
自分がした時より輝いて見える床に驚きつつ、モップ掛けしてるリヴァイに駆け寄る。
『いや、そんな事はない。何度も言うが掃除は十分に出来ている。只、色々紛らわせていただけだ。』
『何をです?』
『いや、気にするな。』
何かを隠すように頭を掻いてモップを戻す。
リサは珍しく動揺しているようなリヴァイに首を傾げた。
『ところでリサ』
はい?と視線を向けるとリヴァイの表情はいつもの無愛想に戻っていた。
『お前、俺がここに来る前何もなかったか?えらいビビってたように見えたぞ』
ジッと見透かすように見つめられる。
『え、誰も来てませんよ。私に用がある人なんてそうそういませんからね。あ!おばあちゃんのお茶友達が気にかけて来てくれることはありますよ!』
にこっと微笑むとリサはキッチンの方へ行き、シルバーのケトルに火をつける。
茶漉しに茶葉を入れると、熱々の沸騰したお湯を温めておいたティーポットへ高めの位置から注ぐ。
すぐに蓋をして2~3分蒸らす。
『リヴァイさん、ブランチのティータイムにしましょう!』
『…ここまで準備していたら断れねぇだろ』
『ですよね。…はい、どうぞ。リヴァイさんの紅茶に比べたらとっても粗茶ですけど。あ、パンもありますよ!今日はパンと紅茶です』
ふふっと笑うと小さめのテーブルに似つかわないレースのテーブルマットをひいて、二つのカップと小ぶりのパン一つを置く。
ささやかながらもブランチになった。
『あぁ、芋よりも随分いい組み合わせだな。アジトで飲む紅茶より旨い紅茶だ。茶葉が良ければいいってものではない。リサの淹れ方も悪くなかった』
『よかった!お粗末さまです。パンもちょっと硬くなってたので霧吹きで少し濡らして温めて直しました。水分で少し柔らかくなってると思いますよ』
リヴァイの向いに座り、パンの小皿をリヴァイの方へ押す。
目の前に置かせたパンをジッと見ながら、
『おい、お前は食わねぇのか?』
『あ~…私はいいんです!リヴァイさんはお客様ですから』
はぁ。とリヴァイはパンを半分に千切り、
『リサも食え。元々はお前のだ。全部返しても遠慮してリサは食わなさそうだからな』