第30章 俺の手によって(●)
『・・・・・・・・・リヴァイさん、知ってました?』
『何が?』
隣に戻ってきたリヴァイは水の入ったデキャンタをリサの前に置くと、片手で頬杖をついて眉を寄せる。
『・・・・・・ローザさん、娼婦を辞めて貴族と結婚するんですって』
ちびちびと飲みながら横目でリヴァイを見ると、初耳だというように鋭い目を丸くしていた。
ローザの娼館に行ったことをリヴァイに告げた時に、この事を確認するか実は迷っていた。
リヴァイとは何度か身体を重ねているが、リサとリヴァイの関係はあやふやでリヴァイを縛れるものがない。だから、リヴァイがローザを引き止めに行くと言えば拒否する権利もない。
知らないままにしようかと思ったが、リサはお酒の力を借りて聞いてみた。
『そうか。あいつが決めたことならいいんじゃねぇか。めでたいことだ』
『・・・いいんですか?もう会えないかもしれないんですよ』
『今生の別れじゃあるまいし、生きてりゃどっかで顔を合わすだろうよ。それとも何か?お前は俺にローザのとこに行って結婚の阻止でもしてほしいのか?』
『ち、違いますよ!ただ・・・なかなか言えなくて・・・。もし、リヴァイさんがローザさんのとこに行ったら嫌だなって・・・』
残りのお酒を大事に飲もうと思っていたのに、リサはかぶかぶと飲みながらリヴァイに言うといつの間にかグラスは空になっていた。
『はぁ・・・。俺があいつのとこに行くわけねぇだろ。もう何度も言ってるが、俺はあいつに興味がないし特別な感情はない。そんな心配して今頃言い出したのかよ・・・』
俯き気味の顔は髪の毛で隠れていて、そっと手で避けると顔を赤くしたリサの瞳と目が合う。
『・・・・・・いつかまたローザさんと出会えたら、今度は友達なりたいです。・・・この間話してて仲良くなれそうな気がするって思いました』
『なんだそりゃ?余計な心配したかと思えば、今度は友達になりたいとか・・・わかんねぇな。まぁ、誰とでも仲良くなれるってのはいい事じゃねぇか』
リヴァイは別のグラスに水を入れてやると、酔いが冷めやすいようにリサに飲むように促す。
『少しは酔いは冷めたか?』
『胃が熱いのも落ち着いてきたと思います』
『よし、行くぞ』
え?とリヴァイはリサの手を引くと自室へ入って行った。