第1章 アップルパイ【孤爪研磨】
隣の家のベルを鳴らすと、研磨のお母さんが出てきた。
私の姿を見ると、すぐに研磨に声を掛けてくれて、少し時間がたった後、研磨がこちらにやって来てくれた。
「、どうしたの?」
『あのね、研磨。研磨、今日ずっと家にいる?』
「うん。いるけど。」
『やった!研磨、今日はそのまま家にいてね!えーっと、何でかはまだ内緒だけど。』
「ん?うん。わかった。が言うなら。」
『クロちゃんは今日研磨の家来てない?』
「来てたけど、クロはお昼食べてからすぐサッカーしに行っちゃったよ。晩御飯の時間まで帰ってこない。多分。」
『えー、そっか。んー、取り敢えず、研磨は家にいてね、約束ね。』
「わかった。」
『じゃあ、おやつくらいの時間にまた来るね。』
「うん。」
手を振って別れて、またすぐ隣にある自分の家に入る。
キッチンに入ると、やっぱり甘いいい匂い。
少し早いけれど、そろそろアップルパイを形にしていこう。
またエプロンを着直して、20センチの型にどんどん成形していく。完成が近づいてきて、ドキドキするのが止められない。
研磨もクロちゃんも甘いものは食べるけれど、アップルパイはどうだろう。喜んでくれるといいな。
クロちゃんの家には後で切り分けたのを持っていこう。
オーブンにセットしてあとは焼き上がるのを待つだけ。
バターの芳ばしい匂いを嗅ぎながら、すぐ横で月刊バリボーをペラペラとめくる。
でもオーブンの中でどんどんと焼き目のついてくるその様子が気になって全然内容が頭に入ってこない。
そんな私の様子を見てクスクスと笑っているお母さんと目が合った。恥ずかしい。
ピーピーという音が、出来上がりを教えてくれる。
熱いのでお母さんがオーブンから取り出してくれる。
『うわぁ。いい匂い。』
パイ生地から香るバターの芳ばしい匂いと、リンゴの甘酸っぱい匂い。
早く出来たてを研磨に食べて欲しくて、お母さんを急かして切り分けて貰う。研磨と研磨のお母さんとお父さんの分。研磨のは、ちょっと大きめに切り分けて貰う。だって沢山食べて欲しいんだもん。
切り分けて貰ったケーキを持って、足早に研磨の家へと向かった。