第1章 アップルパイ【孤爪研磨】
side 孤爪研磨
「?」
膝にいたがさっきよりも少し重くなったように感じて、後ろからの顔を覗き込んでみると、閉じた瞼と、すーすーという規則正しい息遣い。
「寝てる。」
どうやら、おれの腕の中で寝ちゃったみたいだ。
そんな無防備なところが可愛くて、愛しくて。
ぎゅっと、お腹に腕を回して抱きしめてみる。
肩口に顔をうずめると、ほんのりとバターとシナモンの匂い。
こんな、アップルパイを作る為に早起きしたんだろうか。
わざわざ、温かいうちに急いで持ってきてくれたんだろうか。
妹みたいな、可愛い存在だった筈なのに。
こうやっての優しさに触れる度に思う。
そういう優しさは、おれだけに向けてくれたらいいのに。
ずっとこうやって、おれの腕の中にいてくれたらいいのに。
おれよりも、一回りも二回りも小さいの体を抱き締めて、頭を撫でる。
擽ったそうに身をよじるけど、起きる気配はない。
このまま少し2人きりでいたい。
近くにあるベッドを背もたれにするようにそっと移動して、を起こさないように抱きながら近くにあったゲーム機をとってゲームを始める。
勇者はおれ。白魔道士の名前は。クロは仕方ないからシーフでパーティに入れてあげた。
本物のも、ゲームと一緒。
おれのこと、魔法みたいに癒してくれる。
少し遠くなったテーブルから、最後の一口のアップルパイをフォークで刺して口に運ぶ。
甘酸っぱい味が口に広がる。
これからアップルパイを食べる度に思い出すと思う。
このバターとシナモン、リンゴの甘酸っぱい味と、腕の中に感じるの温もりと、可愛い寝顔。
これから、おれの1番好きな食べ物は、アップルパイで決定かな。
あ、でも。が作ったの限定で。
腕の中にいるが愛しくて、またぎゅっと抱きしめた。
~fin.~