第1章 アップルパイ【孤爪研磨】
研磨の家のベルをまた鳴らすと、また研磨のお母さん。
事情を話すとすぐに家の中に案内された。
一緒にキッチンに入って、アップルパイを渡すと、お皿に取り分けてくれて、ジュースまで準備してくれた。
「ちゃんが作ったの?私達の分までありがとう。研磨も喜ぶわね。1人で持っていける?」
『うん、大丈夫っ。』
研磨の部屋は2階にある。
お盆に載せられたアップルパイと、ジュースを持って階段を何とか登り、研磨の部屋の前までたどり着いたけれど、両手が塞がってドアが開けられない。
『けーんーまーっ。あーけーて。』
声を掛けると、すぐにドアが開いた。
「え、なに、どうしたのそれ。」
研磨が私の手からお盆を受け取って部屋にある小さいテーブルに置いた。
「いい匂い。アップルパイ?」
『うん。あのね、私が作ったの。初めて作ったんだよ!研磨、食べてくれるかなーって思って持ってきた。』
テーブルに向かい合うように座る。
研磨の顔が嬉しそうに見える。それだけでこちらも嬉しい気分になってしまう。
「食べていいの?」
『もちろんっ。·····ほら、あーん。』
「え」
フォークでちょきっと切って、研磨の口元に持って行く。
何となく照れたように、でも素直に口を開けてくれた研磨の口にアップルパイを入れる。モグモグと口を動かす研磨が、年上だけど、可愛いなと思う。
『どうっ?美味しい?』
「うん、凄く美味しいよ。はもう食べたの?」
『急いで持ってきたから、まだ食べてないの。』
「ふーん。こっちおいで。」
『ん?うん。』
研磨が自分の胡座をかいた足の上をトントンと叩く。
言われた通りに、研磨の足の上にそっと座る。
背中に感じる研磨の体温が温かい。
目の前で、ちょこんと切られたアップルパイ。
フォークに刺されたそれは、私の口へとやってきた。
「はい、あーん。」
『いいの?』
「うん。一緒に食べよ。」
『うんっ。』
口に入れられたアップルパイは、まだ温かくて、サクサクとして、とっても美味しかった。
時々目の前にやってくるアップルパイに、口を大人しく開けて。
背中に感じる研磨の体温に落ち着いた気持ちになる。
早起きしたからかな、瞼が少し重いや。