第1章
浴室の温かな蒸気に包まれて髪や身体を洗っているうちに、次第と絵麻の緊張もほぐれてきて、湯に浸かる頃になるとすっかりともリラックスして話せるようになっていたのだった。
隣に座るもそれは同様で、ゆったりと湯に浸かって手足を伸ばしていた。
はその落ち着いた声に似合わず結構良く喋るタイプのようで、朝日奈家での生活に困っていないか等、様々な事を聞かれた。
絵麻は朝日奈家にやって来てまだほんの少ししか経っていないが、衣食住に関しては全く問題なく生活できている。学校での生活も特に変化はなく、親が再婚して一気に兄弟が増えたという状況の割には、穏やかな日常を送ることができていた。
だが一点だけ、最大の悩みがある。それをにしてもよいものかどうか、絵麻は少し迷った。
そんな絵麻の様子に、が優しい声で言う。
「何か悩みがあるみたいだね?俺で良かったら聞くよ」
その声に背中を押され、絵麻はおずおずと話し始めた。
「ありがとうございます。えっと…実は、皆さんのことなんです」
「兄弟達の事?」
「はい…皆さんとっても優しくて良くしてくれるんですけど…、その、何人からも好きだと言われてしまって…。でも私達はきょうだいですし、どう接したらいいのか分からなくなってしまって…」
「…あんの野郎共~…」
スッ、との顔から笑顔が消えて、そのあまりの冷ややかさに絵麻は驚く。のような美人の怒った顔というのは、背筋が凍る恐ろしさがある。だけど、それでも見とれてしまうような美しさなのだが。