第1章
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つつがなく結婚式も終わり、朝日奈きょうだい達は自宅へと帰ってきた。両親は式場から空港へ直行し、そのまま長期間のハネムーンへと出発したのだった。本当に、ひとところに落ち着いていない両親である。
「おかえり、ちぃ。結婚式はどうだった?疲れただろう」
マンションの4階にある自室に戻った絵麻を迎えてくれたのは、幼い頃から一緒にいる愛リスのジュリだ。
「ただいま、ジュリ。すごく良い結婚式だったよ。あと今日ね、すごい人に会っちゃったんだ」
「何?誰だ?」
「ジュリも知ってるでしょう?『No Name』。ベースのさんが、実は私のお姉さんだったの」
「『No Name』?あぁ、いつもちぃが聞いているあのバンドか。ん?姉?あのバンドはオスだけのバンドじゃなかったか?」
「あ、うん、実はね、私もさんのこと男性だと思っていたんだけど、実は女の人だったんだ。びっくりだよね」
の顔を思い浮かべて、絵麻はふふっと微笑んだ。
絵麻はベッドに腰掛けて、と出会った時の場面を思い浮かべる。転びそうになっていた自分の事を抱きしめてくれた腕は力強く安心感があったが、よくよく考えてみると確かに男性と言うには少し細めの腕だった。
だが、涼しげな目元やスラリと通った鼻筋、形の整った唇の間からチラリと覗く白い歯などは、どれを取ってみてもため息が出るほど格好良くて、女性だと言われた今でも信じ難かった。