第1章 追憶の呼吸
「この前薬草を取りに行った山に、綺麗な花畑がありました。お身体が良くなったら一緒にここを抜け出して、散歩に行きましょう」
「最近貴族の間で流行っている遊びがあると噂で聞きました。そういう流行りには疎いのですが、病の身でも遊べるそうですから、今度やり方を学んできますね」
「お祭りに行きたい…ですか?…実は私もまだ行ったことがないんです。いつか、一緒に行きましょう。私はいつだって待ちます…約束ですね」
幾度となく指切りをした
幾度となく約束を重ねた
それが成されるのはいつかは分からないけど、私と彼はずっとその約束を覚えていた
でも
幸せな時は必ず長くは続かない
今朝、父から教えてもらった作り方のものならあの方にも食べさせられる。と教えてもらった
だから今日はいつもより少し遅れて屋敷に着いた
でも、何かが違う
そう…匂いが違った
私はこの匂いをよく知っている
馬車で子供が引かれた時
二階から喧嘩をしていた夫婦の一人が落ちた時
戦で手足を失った武士を診た時
これは血の匂いだ
どこか動悸の早まる心持ちで、いつも通りあの方の部屋の襖を開ける
そこは血に塗れ、真っ赤に染まった部屋があった
血の海にいるのは私の父のようだが、頭が縦に割れている。その傍らにはあの方が立ち竦んでいた
いつか、そんな予感はしていた
私はこの光景を夢に見たことがあった
父を殺されているのにもかかわらず、妙に冷静な私に先に声をかけたのはあの方だった