第1章 追憶の呼吸
「…私を…どう見る」
「普通ならば、人殺しという者に当たるでしょう」
「父を殺した私が、憎いか」
「自慢の父でした。少なくとも、貴方をここまで元気にしてくれた。…悲しみはありますが、憎しみはありません。医者はそうあれと教え込まれました」
医者を続けていれば、似たような場面にはよく出くわす
医者である者が患者に殺される
よくあることだと、父に教えてもらったことがある
だからこれは…よくあることなのだ
「本能で伝わる。確かに強靭な肉体を手に入れたようだが、どうやら私は日光の下に出られなくなったようだ」
開いたままの襖から差し込まれる日差しに、ゆっくりと差し伸べらる彼の手は…僅かな火種を飛ばして、燃え上がろうとしていた
手を引いて日陰に戻ることで、燃えた手は瞬時に再生する
…およそ、人の為せる技ではない、ということは…一瞬で理解した
例え怪我をしても瞬時に回復する体
常軌を逸した強靭な肉体
彼は初めて手に入れた健康すぎる体を喜んだが、それも束の間の感情だった
例え強靭な肉体を手に入れたとしても、日光の下には出られない
一日の半分を、一生制限されることに…彼は不満を募らせた
そんな彼に私は何もできなかった
今の彼は私の約束よりも完全な肉体を手に入れることの方が優先されるから
父の死から数日後…彼は私との約束を口にすることをやめてしまった
日光を克服することを第一に、彼は研究を始めた
私はそんな彼の手伝いを、言われるがままに続けた。父の書物を運んだり、薬の知識を教えたり…
まだ、彼の役には立てていたようだったけど、それも長くは続かなかった
今度は私が病にかかったのだ
咳が止まらないという症状の、流行病だった
死ぬことに恐怖は不思議と感じられない
それよりも私は…彼を一人残してしまうことの方が怖かった
何一つ約束を果たせられなくてごめんなさい、と…寝たきりになった私の言葉を聞いて、初めて彼の表情があの頃に戻った
研究の手を止めて、筆ではなく私の手を握ってくれる
私はそれで、十分だったけど…
「…理論上は…可能だ…
一人にはしない」