第6章 過去の呼吸
次に私が目を覚ましたのは、見知らぬ屋敷の中だった
傍らには腰に剣をさした若い剣士
少し離れたところには、何となく懐かしい気配のする
黒髪の少年
そんな空間で真っ先に声を発したのは若い剣士だった
「お前…なぜあの蔵の中にいた?」
「…く……ら…?」
そこで初めて自分の体の異変に気付く
異様に体が重く、手足も痺れたように動かない。声も発することが難しい…
唯一自由がきいたのは視界のみ
そんな私の様子を見た若い剣士がまた口を開く
「少し効きすぎたか…これを飲め」
そう言って口元に小さな受け皿に少量入った液体を、口に流し込んでくる
…そこで、その液体を飲み込む前に激しい嫌悪感とともに酷くむせ返して、その液体を吐き出した
恐らく、私がずっと欲していたものはこれなのだ
蔵の中でいくつか食べ物を口に入れても体は受け付けなかった
でもその液体だけは、口に入った瞬間これだ。という確かな確信を持てた
でも私は、それに嫌悪感を抱く
なぜ?と聞かれればうまく答えられないが、ただ一つ言えるとすれば
私はこれを、食べ物だと認めたくなかったから
「い…いや……これは…」
「…なぜ吐き出す?鬼は人の血肉を食らうものだろう」
「………鬼…?」
この人は何を言っているんだろう
本気でそう思って、その単語をそのまま返した
鬼といえば空想上の生き物のはずだ
親が子供に言う謳い文句みたいな…その程度のものだったはずなのだ