第5章 薬の呼吸
問題なのは、その毒で私が死ねないというところだ
しのぶちゃんの話だと、私の体に流れる鬼舞辻の血がその辺にいる鬼よりも多いからではないか…って言われている
「試験と言えば…最近は試さないね」
「ええ…中々進展しなくて…でも、今ちょうど新薬ができたところです」
「ちょうどいいから今試そうか?」
「…でもまた、ただ苦しむだけかもしれませんよ」
「苦しくても、生きていれば治るものは治ってしまうんだし…効けば効いたでそれもまた良しだし…」
まぁ、効いてしまった場合は炭治郎との約束が守れなくなってしまうけど…
でもなんとなく予感はするのだ。多分、まだこの程度の毒じゃ私は殺せない
ただ死ぬだけなら、日光にあたってしまえばいい。でもそれじゃあ呆気ない
どうせ死ぬのなら、人の役に立ってからの方が私だって嬉しいのだ
「ではお願いできますか?」
「任せて!…この毒で、沢山の人が生きられるかもしれないしね」
しのぶちゃんの毒が私を殺せれば…
鬼舞辻の血を多く取り入れてる私を殺せれば、大抵の鬼を殺すことができる毒が完成することになる
鬼でありながら人間に肩入れしている身だけれど…私は、人を食らう鬼はこの世にいない方がいいと思っているから
だから、こんな長い戦いは早く終わらせなければならない
「では、先に部屋に行っていてください。飲みやすく容器を移しておきます」
「うん。じゃあ先に行ってるよ」
そう言って席を立とうと、襖に手を伸ばす
…と、不意にしのぶちゃんが一言
「依千さん」
「なに?」
「…ありがとう、ございます」
そんなことを言うものだから、思わず頬が緩んでしまった
「安心してよしのぶちゃん。何度も言うけれど、私はこの関係に対してなんの怒りも憎しみもないから。君の手伝いができて、寧ろ光栄だと思ってるくらい」
そう微笑みながら言って、部屋を後にする
…それでもしのぶちゃんは、最後まで悲しそうな表情のままだった