第5章 薬の呼吸
「あ…あの時はまだちゃんと分かってなくて…依千さんが柱であることも知らなかったし…その…」
「いいよいいよ。ああいう反応には慣れっこだから気にしないで…それよりも今はアオイちゃんと仲良くなれたんだし、私はそっちの方が嬉しいよ」
そう言って微笑むと、安心したようにホッとする
そんな昔話をしていたら、いつの間にかしのぶちゃんの部屋の前に辿り着く
「こちらです」
「ありがとうアオイちゃん。あと…申し訳ないんだけど、部屋を一室借りてもいいかな」
「準備しておきます」
礼儀正しく一礼して、アオイちゃんはパタパタと去って行った
お嫁に行ったら絶対いいお嫁さんになるな…なんて考えながら襖の向こうにいるしのぶちゃんに声をかける
「しのぶちゃん。依千です」
「どうぞ」
声が帰ってきたので襖を開けて中に入る
…部屋の中には頭がクラっとするくらい強い藤の花の香りがした
せっかくの非番…急務を要する任務ではない限り休んでもいいのに…この屋敷にいる子はみんな働き者のようだ
普段着の着物を纏ったしのぶちゃんが、こちらを振り返って微笑む
「薬をもらいにきたんだ。例のやつ」
「そろそろ無くなる頃合いだと思って作っておきましたよ」
そう言って藤色の巾着を手渡してくれる
藤の花を生成して作った薬…私からしたら猛毒に当たる代物だ
ちなみに遅効性というところがポイントである
「今来たということはそのまま泊まるんでしょう?」
「ごめんね…お部屋一つ借りちゃって」
「いえいえ、気にしないでください。そういう条約なのだから仕方ありませんし…いつも試験のお礼もあります」
試験…というのは要するに
鬼を殺すための毒を私で試している。という意味の試験だ
もちろん合意の上だし、そのおかげでしのぶちゃんの毒の威力も高まりつつある…共存関係という感じだろうか…