第3章 ルナティックラブ/イルキル/BL/裏
少し汗を帯びている自身の右手を見つめた。夢の中では、この掌で キルアの身体の隅々までを丹念に撫で 悦びの声を上げさせていた。キルアの高い体温も 汗の散る髪も、小ぶりで透き通るような耳朶までも 生々しく脳裏に焼き付いていた。
「…………。」
突き上げる度、悲鳴をあげるキルアをもっと啼かせてやりたくて仕方なかった。下手くそなキスで甘えられると、その無垢な心の全てを汚してやりたい衝動が湧いてくる。たわむ陰嚢を摩り 隆起するペニスを数回しごくだけで簡単に射精してしまう様を「鋭敏で卑猥だ」と罵ってやれば、キルアは顔を真っ赤にしながら羞恥に震えていた。月の女神の加護の元で、キルアは確かに淫らに壊れていた。
「…………。」
ちらりと視線を下へ落とす。なんてことだろう、常軌を逸脱する夢を見ながら イルミ自身も朝っぱらから健全に反応しているなんて。認めても良い事実なのかすらわからなかった。
◆
屋敷の廊下でついに愛弟とすれ違った。冷めた目で無視を決め込むキルアを呼び止め、イルミは今朝方の夢を思い出していた。
「キル」
「…何だよ」
射るような鋭い視線はイルミの知らぬ間に随分大人びている。あの夢は所詮夢であり、夢の中でこそ有効だったのだと再認識をし 心から安心する思いだった。
「オレさ、」
まるで警戒心を剥き出しにしている獅子の子だ、チリチリと敵意あるオーラを飛ばしてくるキルアに イルミは何食わぬ顔で言う。
「今朝キルとヤってる夢見たよ」
激しく狼狽 もしくは激怒するかと思いきや、キルアは落ち着き払ったまま。それどころかニタリと口元に笑みを浮かべている。
「へえ すっげ偶然。オレも見たぜ 兄貴とやってる夢」
ジーザス!!!!!!!!!!!!
さすがのイルミもこれには面食らってしまう。まかさ夢の中でまで以心伝心だとは思いもしなかった。
ニヒルに微笑むキルアは 本当に昨晩あれだけ乱れていたキルアと同一人物なのだろうか。フンと踵を返すキルアは 勝気な声色でイルミに勝利宣言をする。
「電撃一発脳天直撃。オレの圧勝」
「え?」
「あ?」
「…………いや、いい」
口は災いの元である。歯がゆくも 上唇の裏まで出かかった台詞を何とか飲み込んだ。イルミはぽつんと取り残される。呆気なくその場を去るキルアの背中を 少々名残惜しく見つめるしかなかった。
fin