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〈短編〉H×H

第4章 パーミッション/イルミ/微甘/微裏


溢れる満点の星々と、頬に心地よい潮風と。

海面が月明かりを映しキラキラ輝く中、大型の豪華客船はこの世界のど真ん中かと見まごう景色を我が物にしながら悠然と大海洋を遊び回る。白い水飛沫が闇を飾っている。

急ぎ足で外へ出てきたリネルは 船尾に近いスクリュー側の手すりに両手をつく そしてそのまま深く体重を預けた。
ここまで来ればようやく一息、大きく深呼吸をする。美しい夜を邪魔すべく 視界にはらはら入ってくるのは風に流れるプラチナブランドの長い髪だった。

「……はぁっ」

顔にまとわりつく光る髪がいい加減鬱陶しくなり被っていたウイッグをばさりと取りそれを海に放り捨てた。
先程までいたメインのパーティー会場は浮き立つ人の声と弦楽と、酒や料理の香りで溢れていたせいだろうか。ここにこうして立っていると 深い海の波音がひどく心地よかった。

リネルは薄暗い客船のデッキに視線を回す。
そこはいかにも甘ったるい雰囲気で身体を寄せ合う男女ばかりで つい深い溜息が出る。男性は女性の腰を抱き ぴたりと額をくっつけ、愛の言葉を語り合っているのだろう。
この船にはトリプルランクのスイートルーム並みの広い個室も備えられている、彼等は皆 飽和値ギリギリまで気分を盛り上げてから 2人きりで極上の時間を共有するのだろう。

だが、今のリネルにはそれがどうにもまやかしの愛にしか見えなかった。豪華絢爛を絵にした巨大客船の上で、輝く星々に見下ろされ、優雅に着飾る紳士淑女が2人遂になれば 極論相手が誰であれ“そういう雰囲気”にならない方がおかしいと思う。


ここで1つの気配が近付いた。
彼等の十八番である足音すら立てぬ歩き方はこの甲板の上ではむしろ不自然なんじゃないかと心で牽制をしつつ、リネルは素っ気なく振り返る。

そこには今宵のパートナーであり本日の雇い主とも言えるイルミの姿がある。何らおかしい事はない、ここにイルミを呼んだのは他ならぬリネル自身だ。
任務の終わりと同時に渡されていたゾルディック専用無線機にて 完了連絡と落ち合う場所を取り決めただけだった。

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