第60章 カウントダウン/イルミ/スト―カーにあう死ネタ
もう殆ど食事も取っていない気がする、そのせいか頭が朦朧とする。
ああ 私はこのまま衰弱して死ぬのかな、なんて惨めな未来を予測した。
「迎えに来たよ」
そんな頃、部屋に響いたのは高いとも低いとも言い難い聞いたこともない声だった。
弱りきった身体を無理矢理起こした。見たこともない相手が誰であるのか、その答えは 単純化した潰れた思考には容易だった。
「…あなただったの?手紙も電話も…全部」
「半分正解ってトコかな」
曖昧な返答は頭に入ってこない、わかるのは 凛と佇む目の前の男が 平穏な生活を壊した張本人であるという事だけだった。
何故だか不思議と 恐怖や憎悪よりも 「やっと会えたね」なんて懐かしさすら感じていた。どうやら私は頭の中まで歪んでしまったらしい。
「思惑通りに勝手に疑心暗鬼になって壊れていったよね、こっちはきっかけをあげただけにすぎないのに。用意したいかにもそれらしい内容の手紙や電話をね」
彼が何を言っているのか、もうどうでもよかった。私は早く楽になりたかった。
「最期だし。全部教えてやろうか」
やっぱり最期なんだ。ようやく私はこの悪夢から解放されるんだ。
「ああいうのストーカーっていうの?オレはキミのストーカー男に雇われただけのただの殺し屋」
殺し屋と言うよりは 彼はまるで死神にでも見えた。奇妙な程色白で、キレイで神聖に見える。言うなれば この世のものではないくらいに。
「今日はね、依頼主から受けた最期の仕上げをしに来た。外傷なく美しいままの“屍体”として キミを手に入れて自分だけのものにしたいんだって」
死んだ後のことなんか正直どうだっていい、向かいに立つ彼はこれから私を殺してくれる。それだけが真実で構わない。私はついにこの絶望の穴から抜け出すことが出来るんだ。
「ネタばらしは以上。ここから先は業務時間」
彼の声を聞いていたら、不要だからと忘れた筈の笑みが 自然と口元を飾っていた。
「……ラクに、してくれるんだ。ありがとう 死神さん」
「変な男には気をつけるべきだったね」
もしも生まれ変われたら、平穏な一生を上書きしたい。誰の目にも留まらず、誰の記憶にも残らない、野に咲く一輪の花にでもなりたい。
そんな叶わぬ願いを思った。
fin