第15章 A線上の恋煩い/ヒソカ/オケパロ/その他キャラ
決して長くはない曲が一巡する。
音を残すホールが静寂に戻りきる前、リネルからは自然に ぎこちない拍手と震える声が発せられていた。
「……ブラボー……!」
「腕落ちたんじゃないの?ヒソカ」
自身の技術に対しては驕り高ぶりの欠片も無く、イルミはあっさり立ち上がる。ヒソカは弓を振り下ろし 軽口でイルミに答えていた。
「イルミのテクがあまりにも情熱的で激しくて……余裕がなかっただけさ」
「クロロのオケなんかで遊んでるせいだろ」
呆れを含む態度で、イルミは素早く腕を組む。
その黒目はリネルに向けられていた。
「で、キミは誰?」
「あっあの、私は、ええと……」
口を挟むのはヒソカだ。
「彼女はクロロのオケのコさ。探してたろ?フルート奏者」
「ああ うん。そうそう、そうだった」
ぽんと掌を打つイルミは舞台を降り、リネルの前まで歩んでくる。ここで、ヒソカがようやく中継ぎをしてくれる。
「紹介が遅くなったね。彼はイルミ」
「あっ どうも、こんにちは…あの、ピアノ素晴らしかったです」
「あれくらい普通だよ。血反吐吐くほど弾いてるし」
敬意の台詞はさらりと流されてしまった。ヒソカはにんやり目元を細めている。
「さすがはゾルディックのご子息、だろう?」
「ゾルディックって……オペラ歌手のキキョウ=ゾルディックとやっぱり関係あるんですか?」
「うん。それはオレの母親」
「ええぇえええ?!!」
素顔は愚かプロフィールの殆ども謎に包まれている“覆面の歌姫”なるキキョウ=ゾルディックに こんなにも大きな息子がいようとは。彼女のミステリアスな才能にえらく惚れ込んでいる父親が この事実を知ったら口を開け倒れるのではなかろうか、なんてことを思ってみる。