第15章 A線上の恋煩い/ヒソカ/オケパロ/その他キャラ
舞台袖から誰かが顔を出した。ヒソカは軽口でその人物へ挨拶を飛ばしていた。
「待たせたね。」
「急だね いきなりウチのホールを使いたいなんて。たまたま空いてたとはいえココの手配楽じゃないんだよね」
「久々に……イルミとヤりたくなっちゃって」
「レッスン料と使用料はもらうよ」
「構わないさ」
ヒソカはひらりと身を浮かせ、舞台上へ身体を移動させていた。リネルはひとり戸惑いの中、客席から2人を見上げるしかない。
連れてきておきながらリネルへのフォローもしてくれないヒソカは、舞台上に腰を下ろすと 自らのバイオリンケースの蓋を開け、そこから愛器を取り出していた。
期待が、確信に変わる。
このホールの真ん中で たった一人の観客として彼の音を独り占め出来ようとは考えてすらいなかった。バイオリンを構えるヒソカの立ち姿を上ずる鼓動と共に見る。
「ちょうだい、A(アー)」
ねだるようなヒソカの視線が流れる。催促を受け、イルミは中指一本を真っ直ぐ鍵盤へ落としていた。無機質な空間に投下されるのは濁りのない“A(ラ)”の音だ。
「……ココでの音はやはり格別だ」
そう評価するヒソカは陶酔するように瞳を細めている。
まだ音の余韻が残る中、ヒソカの弓がA線を弾いた。どこでそんなにも狂ったのか、半音近くもずれたピッチがピアノの音を汚し イルミは俄かに眉を詰めていた。
「これは失礼」
もしかしたらA線の上振れはわざとだったのだろうか、たかが調弦ですらヒソカは実に楽しそうだった。
ピアノの音階に乗せて、あっという間に4本全ての弦は整ったみたいだ。
「んー 完璧♡」
「Eがまだ低くない?」
「そう?」
「うん。少し上げて」
「……くく、ホントに耳が敏感だ」
「まあね」
微調整が完了すれば、いよいよ演奏会の時間だ。