第15章 A線上の恋煩い/ヒソカ/オケパロ/その他キャラ
時は過ぎ季節が本格的に冬に差し掛かった。
リネルにとって、あの日のヒソカとの一件は 今でも淡い夢みたいに思えていた。
かの出来事よりヒソカとの距離が急接近、なんて都合の良いことはおこる訳もなく 勉学やオーケストラの練習に忙しい日々は瞬く間に通り過ぎてしまう。見つめるだけの恋心は息を潜めたまま、今もなおリネルの胸の内で静かな音を出し続けている。
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「おつかれ様でしたー!」
オーケストラで猛特訓を重ねていた例の曲もだいぶ仕上がって来た頃。いつものように練習を終え 片付けに手を動かす傍ら、リネルはヒソカの姿を探していた。
「やぁ しばらく」
「………!」
今日はえらく帰宅が早いのか、見当たらないと思っていた派手姿が 真ん前にいることには だらしなく口が開いてしまう。
「この後 時間あるかい?」
まさか声を掛けられるなんて想定外もいいところだ。
仲間のフルート奏者も、その他の木管楽器の奏者も、もしかしたらこのオーケストラ中の全員が こちらに集中しているのではないかと思った。
そんな中で、鋭利なる視線を見つめ返すには かなりの勇気を要する。ヒソカのメタリックなバイオリンケースへちらちら目を泳がせながら、声を出すのが精一杯だった。
「あっ はい……、ええと」
「良かった。行こうか」
これはデートの誘いなのか、否。
リネルの耳がおかしくなければ そのように聞こえなくもない。まさかこんな、信じられないことはこの世に存在するみたいだ。