第15章 A線上の恋煩い/ヒソカ/オケパロ/その他キャラ
「…気付いていたんですね…」
「もちろん。仮にもコンマスだ」
「すみません その、…調整が悪くて」
「Aの上ブレは“恋煩い”」
ぱちぱちまばたきをしてしまった。“恋”だなんて、今のリネルにはリアルタイムでしかない単語がヒソカの口から出ようとは思いもしていなかった。リネルは箸を握ったまま、ぴたんと固まってしまう。
「ボクの考えた音程別心理診断さ 当たってる?」
「や…っいや…そのっ」
「くくっ わかりやすいね」
「………………っ、」
そんな事を言われれば顔からは火が出そうになる。茶碗片手にてきぱき食事を進めるヒソカは こちらの緊張を煽るような台詞をいとも容易く言ってのけるのだから、何もかもを見透かされている思いが募る。
リネルのボリュームたっぷりな生姜焼き定食は少しも減りそうもない。
「キミとはこれからも仲良くしたいと思っているんだ」
「え…………………っ」
なんとも意味深な言い回しだ、ヒソカ本人は笑みを深くするばかり。数秒間は 確かに視線が重なった。
「ゴン」
惜しげも無く、ふと横顔を披露される。
鼻筋から額のラインまで、ヒソカの造作は見惚れるに値する完成度の高さだ。
「ゴン 水おかわり」
「ごめーん!今忙しくて手が離せないから自分で入れて!カウンターにあるからー!」
「……やれやれ」
小ぶりなグラスを片手に立ち上がるヒソカの姿、汗だくのお冷ピッチャーを持つ様はなんだか妙に可愛らしい。
あのオーケストラでは絶対に見られない一面を目の当たりにすれば、胸がドキドキうるさくて仕方がない。席に戻るヒソカは 再度箸を取る。
「食べなよ。ここの料理人クチは悪いけど腕は最高だ」
「あ…はっ、はい!」
「オケも体力勝負だろう?クロロもアレで激しいからね」
「ええ いただきます…!」
照れた目元を下に外した、どうにも熱に包まれている感覚は この店の活気のせいなのか。
リネルはようやく味噌汁に口をつけた。