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〈短編〉H×H

第15章 A線上の恋煩い/ヒソカ/オケパロ/その他キャラ


彼の奏でるバイオリンの旋律は実に奥が深い。

技巧を駆使した難解な曲をこなすでもなく、作曲者が譜面に込めた想いを正確な音で表現する訳でもない。それでいて人を惹きつけてやまないのは、軽やかな音色を引き出す魔法のようなボウイングと ソロを演出する際の独特な立ち姿のせいなのか。
リネルも例に漏れず、ヒソカに魅了されてしまった哀れな女子の一人であった。



「お疲れ様でした~!」

ひとたび練習が終われば緊迫したオーケストラ内の雰囲気は一変し ざわざわと雑音が増える。リネルは急いでフルートの頭部管を抜き クリーニングロッドにガーゼを巻き付けてゆく。

このオーケストラのフルート奏者を初めて早3ヶ月。

自分ではさほど意識をしていないがリネルはそこそこの老舗楽器メーカーの令嬢だった。若いうちは経験を豊富にと、親のコネで半ば強制的に入れられたのが敏腕指揮者率いる若手ばかりのこのオーケストラというわけだ。勉学の合間にハードな練習を重ねる日々にも 今では随分慣れてきた。

手元のまばゆい銀メッキとライトのあたる舞台最前列とを、焦りながら何度も交互に見た。
今日の今日こそはこのオーケストラ1番の話題人物に声を掛けると決めていた。イメージトレーニングだって飽きるほど重ねてきた、この覚悟を無駄にする訳にはいかないのだ。

「おつかれ」

それなのに。
呆気なくも 速やかに身を進めてしまうヒソカの姿が視界の隅に映る。赤いダークなメタリックケースに収まるバイオリンを軽やかに肩に添え、長足で舞台を降り立ってしまうではないか。

女子達は明らかに彼を目で追っているし 一部の男子だって例外ではない。独自の音楽センスもさる事ながら ヒソカの容姿も雰囲気も、とにかく悪目立ちが過ぎるのだ。
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