第14章 恋心/イルミ/カオナシパロ/シリアス
物の怪は 四つん這いでズルリとリネルに近寄ってくる。美しい髪が俄かに揺れる、乱れた衣服から覗く肌が 淫らな色を綺麗に醸す。 人の姿を借りた不気味で不浄なる化物を前にし、リネルの足は竦み腰が引ける。縛られたように身体が動かなくなった。
「リネルが欲しいもの何でもあげるよ?なに?言ってみて?」
「……私の欲しいものは あなたには絶対に出せない」
「え」
物の怪は少し眉を揺らす。出せないものなどありはしない。血に濡れた白い手をゆっくり伸ばし 緩く拳を作る。
「この手から出せないものなんてないよ。言ってごらんよ」
「…あなたのそれは、手なんかじゃない」
「何を言ってるの?これは手だよ」
伸ばされた手がリネルの頬を撫でる。親指が冷えた唇を辿る。まるで死化粧だ、ぬるりと感じる女の血はまだ温かい気がした。
「こうやってリネルに触れる事が出来るしリネルの欲しいものをあげる事も出来る。これは手だよ、人間の」
「…そうだけど、そうじゃない…」
「教えてよ リネルが欲しいもの。リネルにだけは望むものを何でもあげる。なに?言ってみて?世界一の富?名声?永遠の命?」
「出てって下さい。あなたがここへ来る前に、全てを元に戻して下さい」
リネルは自然に首を垂れる。膝に握った自身の拳は小さく震えている。
触れていた手が素早く離される。物の怪は首を品良く傾げながら言う。