第14章 恋心/イルミ/カオナシパロ/シリアス
「………」
来いと言われて安安近付ける光景ではない。無機質な視線に縛られ 足が鉛になる。そんなリネルを観察する物の怪は 干した盃の淵を赤い舌で小さく舐め、瞳を僅かにズラし 代りを要求する。美醜なる仕草は身震いを感じるほどだ。女が横から甘い声を出す。
「ねぇ あんな小娘のどこがよくって?退屈させませぬよう精一杯ご奉仕いたしますゆえ もっと私共と遊びましょう?」
「リネルが来たからお前らはもういらない」
熱いほどに真っ直ぐな視線とは裏腹に その声は異様に冷たい。
「寂しい事を仰らないで下さいな。もっと深くて愉しいコト、なさいますと」
「いいってば」
ひゅん、と空気が割れる。何かが女の顔に刺さり 美しかった女の顔が醜く歪み出す。
「あが、…あ、がだだだなやだが」
「きゃあああああああああっ」
一瞬のうちに地獄絵図だ。周りにいた湯女全員に同現象が起こる。捩れる顔からは血が噴き出し 長い爪がそこを掻き毟れば 潰れた肉がぼたりと落ちる。血塗れの眼球だけが不自然に残った女達は次第に動かなくなり その場にばたりと倒れこんでしまう。部屋中に散乱する生臭さの正体が今、正確に理解出来た。