第14章 恋心/イルミ/カオナシパロ/シリアス
「遅かったね」
決して大きくはないのに響く声。乱れた部屋を視線だけで見渡す、リネルの口元が大きく歪んだ。
入り乱れるのは食べ物と血の臭いだ。ひっくり返された器から馳走の数々が転がり 新しい畳を汚している。その合間にぽつりぽつりと落ちているのは赤黒く生々しい肉片、数刻前まではおそらく人間だったもの。
轆轤や障子にまで飛んでいるのは錆びた生き物の血、部屋を赤く汚している。
「待ってたよ」
部屋の真ん中にいる声の主に目を向けた。唯我独尊の如く 食し、暴れ、殺戮を繰り返したとは思えぬほどに 静かな顔のままだった。一糸もずれぬ黒髪はむしろ違和感がある。
「ンン…っ、ぐちゅ」
嫌でも耳に付く卑猥な音に視線が吸われた。周りには薄い布を羽織っただけの湯女を数名侍らせている。湯女達は曲線の深い身体を 厭らしくくねらせ、物の怪に柔らかな肉を押し付ける。
男の黒い着物からは筋ばる太腿までが見え、その中心に頭を埋める女の長い舌は 雄を丹念に愛でている。
「こっちにおいでよ」
男の空いた白い手が リネルを呼ぶ。塞がる一手は 大きな紅い盃を傾け、周りに酒の香を漂わす。