第14章 恋心/イルミ/カオナシパロ/シリアス
芍薬の間。
そこはこの湯屋で最も高価なもてなし部屋だ。白地に金箔がふんだんに貼られ 豪華絢爛を誇る朱色の芍薬絵が広がる襖、リネルはその前に立っていた。
奥からは品ある花絵に相応しくない乱れた音が漏れている。陶器が割れる音や湯女の媚いる高い声。魑魅魍魎が生み出す部屋の中での出来事を 怖々想像するしかなかった。
「早く行け」
名を奪われ契約を強いられている、拒否権はない。後ろから主の声が放たれた。無情無比なるその声は リネルの末路は物語っているようだ。後ろから髪を掴まれる。吊れるこめかみからプツプツ髪が抜ける音が聞こえた。
「客の要求を満たすのがお前の仕事だ」
「っ…」
もはや行くしか道はない。恐る恐る襖を開いた。