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〈短編〉H×H

第11章 捕食者/イルミ/吸血鬼パロ/主人公夢魔


言われてみれば 彼の言い分もわからないでもないのだが。リネルだって腹が減れば 選り好みなんかしていられないのは事実ではある。脳の中で何かが矛盾する。

自身の獲物を横取りされた腹いせに。
腹立つ衝動は空腹を更に駆り立てる。
いや むしろ、ソレは単純に「美味しそう」だ。

思考回路が狂いだす気がする。

「ええ、おっしゃるとおりです。私も……空腹が満たされさえすれば 対象はなんだっていい」

「ならさっさと他を当たれば?」

「…………」

そういえば、遠い遠い昔。
時間感覚がないゆえに忘れていたが、この種の魔に相対したことがあるのを思い出した。

リネルの腰の真ん中を軸に 気取った仮面が剥がれてゆく純血種族の無様な末路、得られる褒美は喉が灼ける濃密な精気と 身が裂ける苦痛の日々だ。ジクジクと首筋の古傷が騒ぐ。

こちらだって魔の一旦なのだから 欲しいモノは己がルールで手に入れてこそ美徳、代償があろうがなかろうがどうだっていい。夢さえ見せれば 腹が満たせる。方程式は簡単だ。



「ねえ、お待ちになって」

「……」

「我々には“時間”なんて負の財産はないではありませんか。お急ぎなさいますな」

自分でもわかるくらいに声が上ずる。きっと衝動的捕食欲求はダダ漏れだ。

「オレを餌にするつもり?」

それをすぐに察する吸血鬼は ゆらりと振り返る。眉目秀麗を絵にしたような空気感に秘められるのは リネルを蔑む傲慢の色。
ゾクゾクする。きゅるると妖しく胸がなる。

一気に背に広げたのは黒い自慢の翼だ。音速を誇るこの背羽なら 一瞬のうちに獲物を狩る事が出来るだろう。

「高潔な貴方が…お願いした所で聞いて下さるとは思っておりません」

「なるほど。実力行使ってワケね」

「僭越ながら。私とて今宵の獲物を奪った貴方をこのまま見逃せませんもの」

宣戦布告。いただきます、の意を込めて。

「オレを生き餌に出来ると思ってるの?」

「生き餌だなんて……甘い情欲をさしあげますわ」

「低俗悪魔は脳の中も馬鹿みたいだね」

「クス……お黙りなさい」

滲み出る極上の精気が欲しい、生唾が口内を濡らす。
空を切る音がする、身体が勝手に動いた。

「ご機嫌よう 色男さん」

「死ね」

生きる事それ即ち命がけ。食事とはつまり、捕食者に命を頂くことだ。

fin
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