第11章 捕食者/イルミ/吸血鬼パロ/主人公夢魔
その夜は生暖かい不気味な風が吹いていた。刃を入れたら血が滴るのではないかと思うくらいに 大きく赤い奇妙な月が出ている。
「………っ、ハァ」
クラクラする程に身体が疼く。昨晩食事を終えたばかりであるのに、腹が減ってたまらない。
背中に畳んだ 骨ばる漆黒の羽を広げ夜空を舞う。センサーのようなものが働き、一直線に獲物の元へと急いだ。
◆
「ぎゃああああっうわああああああやめろおぉおおおおお、」
人もいない深夜帯の路地で人間の叫び声がする。それと同時に嫌な予感が胸をよぎった。
今にも消え入りそうな人間の命の気配、それはまぎれもなく今夜の食事になるはずだった人物だ。
「あ、ああ………くァ…」
迷いも躊躇もなく狩をするのは人でない、自分と同じく魔の世界に住まう存在だと一眼で理解した。
壁際に獲物を追いやり喉元に顔を埋めている。次第に抵抗しなくなる獲物の首から 何かが潰れる音がした。骨を噛み砕いているのか ごりごりと鈍い濁音が続く。
散乱する血の香りがその場を色濃く満たしてゆく。ただの肉の塊に変えられた人間はだらんとその場に倒れるが、丸ごと喰らい尽くす勢いで 捕食者は崩れた身体にのしかかる。
「………」
高いビルに羽を下ろし 上から始終を伺っていた。その光景は実に醜悪、食事方法に意見する気はないが 改めて見ると理解不能である。わざわざ穴を開け 中を循環する血液だけを食料とするのは下品であるし 古典的で効率が悪い。
もっとスマートに美しく、甘い罠の下で食事が出来ないものかと問いたくなる。
◆
吸血鬼が食事を終えるタイミングのもと、気配を断ち静かにその場に降り立った。人間を貪っていた人物は驚きもせずにゆっくり振り返る、黒髪が音もなく風に揺れていた。
「……彼は私の物だったのに」
「残念だったね。それはオレの餌だったから」
白い顔をした吸血鬼を見る。口元を真っ赤に汚しているのに 毅然とした佇まいが雅になる様は 魔物特有の美しい姿のせいなのか。容姿は端麗であれど吸血鬼というのは とかく傲慢であり自分たちこそ魔物の中でも一流だとエリート面をしているイメージが強かった。
目の前の人物も例外ではないようで、目すら合わせぬまま すぐにその場を去ろうとする。
「お待ち下さい。何故彼を?」
「餌を選ぶのに理由はないけど」