第58章 満員電車/クロロ/現パロ痴漢
熱気と湿気に潤む瞳を揺らしてしまう。
満員電車で知らない男にある意味の痴漢行為をされているのに 何故か性的興奮を感じている。これから仕事であるし、何がどうこうする訳でもないのに 頭が勝手に目の前の端正な顔の男に抱かれることを想像してしまう。
胸がドキドキと、身体がジンジンと。
この状況で興奮するなどどうかしている。
「まもなくー◯◯駅ー◯◯駅ー」
目的の駅に着く。ホッとするような 残念であるような変な感覚の中、扉が開けばまた人の波にのまれる。その彼は下車はしないようで 自分だけがその場を去ることになる。
「…………じゃ またな」
耳元に響いた声にそっと顔を向ければ 男は相変わらず余裕の顔を崩さずにいた。
すぐに乗り込む人、人、人の山に埋もれ男の姿は消えてなくなる。電車ばかりを目で追ってもいられないし、後ろ髪惹かれながらも急ぎ職場に向かうしかなかった。
「また」というのがあり得るとも思えない。ダイヤが大きく乱れたおかげで、偶然にもあの場にたまたま居合わせただけなのだから。
なのに何かを期待してしまう。もし本日仕事などなく 同じ駅で下車していたら 先の展開も気になるし、最低でも連絡先くらいは教えてやっても良かったかもしれない。そんな不毛な妄想をした。
最悪な金曜の朝の中に 上ずる興奮を覚えながら、駅の階段を急ぎ足で登って行った。