第52章 普通を叶える/イルミ/執事パロ
「何をしているのっ…無礼者…」
「何と無く」
「わたくしの頭上に従者のお前が断りなく触れるなど…言語道断です…っ」
「わかってる」
「しかも素手で…っ、恥を知りなさい」
「汚れたままの手袋で触るのは失礼だから。まだガキだけど一応レディだしね」
軽く頭を撫でた後、イルミはキリッと背筋を伸ばす。1分間はあっという間に過ぎ去る。
執事はどこからか予備のグローブを取り出し それをキュッと装着する。そしていつもの口調で話出した。
「それではご要望通り 明朝は起こしませんので存分に寝坊なさって下さい」
「えっ…」
「交通網を止め屋敷のリムジンを飛ばせば寝坊されても学校まで間に合います。道中 お嬢様が立ち寄る百貨店にはオーガニック素材を徹底したパンを卸させる手配を。昼食時には学校の屋上に簡易的なデザイン性のある小屋を設置します。帰宅途中のルートには海外で人気のあるというケーキ屋を我が国第1号店として導入致しましょう」
「…あの、イルミ」
「友人恋人候補も品があり教養高い人材を見繕い数名ご用意します、お好きな人物をお選び下さい」
「………わたくしが言っているのはそういうことではないのですが…」
「これが最大限の譲歩です」
話を終えると執事はくるりと振り返る。素早く部屋の入り口まで足を進めた。
「そうと決まれば早速準備を。本日はこれにて失礼致します」
「え、ちょっと…」
「秩序を乱さぬ範囲内で主の願いを叶えるのが仕事ですから」
執事は大股で部屋を去る。
揺れる服の裾と黒髪を見送った後、広い部屋で1人溜息をつき ぽつりと口にした。
「…普通というのは わたくしにとっては想像以上に厳しく難しい事なのですね…」
fin